イエスの系図に名を連ねたルツ (ルツ記)

 ベツレヘムの飢饉を逃れ、エリメレクは妻のナオミと二人の息子を連れてモアブに避難しました。時は士師時代です。当地でエリメレクが亡くなり、二人の息子たちはモアブの女性と結婚をしましたが、二人とも亡くなってしまいました。財産を使い果たしたナオミは郷里のベツレヘムに食料が潤っていることを聞き郷里に帰ることにしました。ナオミはモアブの嫁たちに「あなた方はそれぞれ自分の母の所にお帰りなさい」と勧め、一人の嫁は泣く泣く離れ去りました。ルツはナオミに縋りつき、「あなたを捨て、あなたを離れて帰ることを勧めないでください。私はあなたの行かれる所に行き、あなたの宿られる所に宿ります。あなたの民は私の民、あなたの神は私の神です」と答えました。ルツとナオミの信頼関係で結ばれた嫁と姑の麗しさ、ナオミへの尊敬と愛情からくるルツの真意でした。ナオミ一家が神様を中心とする生活、唯一神を嫁たちに伝えていたこと、ナオミの嫁への思いやり、円熟したナオミの人柄がルツに慕われていた様子がうかがわれます。ルツ自身も従順で、愛情細やかでやさしく親切で、

心から家族に仕えていました。それ以上にモアブの神々からイスラエルの神様を信じるルツの献身が根底にありました。姑ナオミのマラ(苦しみ)からナオミの本来の意味(楽しみ)を戻してあげたい、そのためには何をもいとわない彼女の決断でした。見知らぬ外国に行き、姑ナオミを養う手立てを考えると多少のしり込みはあったかもしれません。私たちが外国の地アメリカに来たとき、将来の期待と不安が交差したことを思い出してください。ルツはナオミを信頼すると同じようにイスラエルの神の翼の下に避け所を求め、二人の将来を神様の導きに委ねベツレヘムへ出立しました。

 

 二人がベツレヘムに着いたのは大麦刈りの初め(34月)頃でした。ルツは早速「落穂拾いに行かせてください」とナオミの同意を得て出かけました。ルツははからずもエリメレクの一族で非常に裕福なボアズの畑に行き落穂ひろいをはじめました。そこにボアズが畑の見回りに来て、「主があなたがたと共におられますように」と刈る者に言い、彼らは「主があなたを祝福されますように」と挨拶をかわしました。素晴らしい挨拶です。私たちもこのような挨拶ができたら、お互いの信仰を励ましあう気がします。ボアズは見知らぬ女性が落穂を拾っているのを見て、監督者に「これは誰の娘ですか」と尋ね、「ナオミと一緒来たモアブの娘です。どうぞ刈る者の後について束の間で落穂を拾わせてくださいと尋ね、朝早く来て今まで休みもせず、ずっと働いています」と答えました。ルツがナオミに親切を尽くしている評判を聞いていたボアズはルツに声をかけ「刈り入れが全部終わるまでここにいなさい」と、又彼女が働きやすいように、刈る者に「ルツのためにわざと穂を抜き取り拾わせなさい」と配慮しました。昼食の時、ボアズはルツを呼び彼のパンと水を分け与え、ルツは飽きるほど食べて残しました。彼女は彼の親切にどれほど慰められ励まされたことでしょう。イスラエルの神、主はその翼の下に身を寄せてきたルツを祝福してくださいました。主は主により頼むものを慈しみ、大いなる恵みをルツに注いで下さいました。慣れない土地、人と仕事で一日中働き疲れていたルツでしたが、主が共におられることを感謝し、彼女の心は主の恵に満たされたばかりか、大麦一エパ(23リットル)の収穫を携え家路を急ぎ、今日の出来事をナオミに伝え共に喜び神さまの御名を崇めたことでしょう。ルツは大麦と小麦刈りが終わるまで(56上旬)ボアズの畑で働きました。「落穂拾い」の絵は1850年頃ジョン・フランソワ・ミレーによって描かれた油彩作品です。彼はフランスの郊外で見た落穂を拾う農村の貧しい人々の姿を描いたのではなく「ルツ記」にもとずいて描いたといわれています。帽子を深くがぶっている夫人の顔は明らかではありませんがおそらくルツでしょう。ルツの顔をあえて見えなくしているミレーの意図を考えるとき、あなた自身の顔をそこに描いてみてはいかがでしょうか。ルツだけではなく一生懸命に働き、主の翼の下に身を寄せておられるあなたを主は見ておられます。主はあなたの祈りと思いを知っておられます。主はルツと同じようにあなたと共におられ、慈しみ、豊かな恵みを注ぎ報いて下さいます。 

   わたしは主に言う、「あなたはわたしの主、あなたのほかにわたしの幸いはない。」

(詩編16:2)とルツの信仰告白が聞こえてきます。

 

 イスラエルの立法に基ずきルツはボアズと結婚し、その子をオベデと名づけました。オベデを抱いたナオミは嗣業(土地)が買い戻され、また家系が復興して、いままでの心の痛みが取り除かれ喜びに変わり、マラ(苦しみ)から本来のナオミ(楽しみ)になりました。町の人々はルツを7人の息子に勝ると高く評価しました。それもそのはずオベデはダビデ王の祖父であり、イエスの系図にルツの名が書かれているからです。イスラエル人が血統を重んじる中で、外国人の女性がイエスの系図に名を連れているのはラハブと二人だけです。ルツがナオミに「あなたの民は私の民、あなたの神は私の神」と宣言したその時から、主に全面的に頼り、委ねる信仰がルツの人生を変えました。人種の枠を超え、神様を中心とした人々の輪が広がりました。

                               古山 礼子